本当に優れた野球選手を示すWAR、OPSとは

メジャーリーグ

 エンゼルスの大谷翔平がMVPを獲得できるかどうか、話題になっている。

 大谷は今季野手として、155試合に出場し、打率.257、46本塁打、100打点の記録を達成している。さらに投手としては23試合に登板し、130回1/3を投げて9勝2敗、防御率3.18と上々の成績を残した。投手としては二桁勝利こそ達成出来なかったものの、156三振を奪っており、圧倒的な力を見せつけたと言える。MVP獲得が話題となってもおかしくない成績だ。

大谷の優れた記録

 では、その大谷の成績はMLBでどれほど凄いものなのか? 詳しく検証していきたい。

まず46本塁打だが、これはゲレロ(ブルージェイズ)、ペレス(ロイヤルズ)と2本差でア・リーグ第3位の成績。さらに日本人メジャーリーガーのシーズン本塁打記録を、松井秀喜(2004年)の31本から大きく塗り替えた。加えて、日本人選手が100打点以上を記録するのも松井秀喜以来2人目の快挙。本塁打、打点共に全く文句のない成績であることがわかる。

一方、打率.257は物足りない成績にも見えるが、出塁率やOPSといった数字を見ていくと印象は変わってくる。

 ここからはそのOPSという、メジャーリーグでは主流となっている本当に優れた野球選手を評価するための指標も使い、大谷の成績を見ていきたい。

OPSとはなにか?

OPSとは、簡単に言うと出塁率と長打率を足したものだ。例えば2021年シーズンの大谷の出塁率は.372、長打率は.592だったため、OPSは.965となる。

 日本では最近知られるようにはなってきたものの、まだまだ馴染みが薄いこの数字だが、いったいこれで何がわかるのか?

 まず一つは確実性の高さだ。打撃は調子によって波があるが、選球眼は波が少ないと言われている。打撃が不調でも四球を選ぶことなら安定するというわけだ。さらに、四球を選ぶことが出来るということは、出塁するだけではなくアウトを奪われなかったということでもある。野球が27個のアウトを奪われるまでにどれだけ点を奪えるかを争うゲームであることを考えると、四球を選ぶことの意味の大きさがわかるだろう。

ちなみに大谷の日本での出塁率は以下のようになっている。

2013年 204打席 12四球 出塁率.284
2014年 234打席 21四球 出塁率.338
2015年 119打席 8四球 出塁率.252
2016年 383打席 54四球 出塁率.416
2017年 231打席 24四球 出塁率.403

MLBへ挑戦する間近の2016年と2017年は出塁率が4割を超えており、非常に優秀な成績を残していることがわかる。日本時代から選球眼が優秀だったり、他球団の投手から警戒され、四球を与えられていたことが、この数字に繋がっているのだろう。

類稀な長打力

 続いては長打率だ。大谷の長打率.592はなかなかに高い数字で、松井秀喜が2004年に達成した.522を抜いて日本人シーズン記録になっている。長打を放つということは、すなわち塁上にいる走者をホームへ返すということ。中軸を担う打者としては必要不可欠な能力だ。

 同じく大谷の日本での長打率は以下のとおり。

2013年 204打席 3本塁打 長打率.376
2014年 234打席 10本塁打 長打率.505
2015年 119打席 5本塁打 長打率.376
2016年 323打席 22本塁打 長打率.588
2017年 231打席 8本塁打 長打率.540

 2016年と2017年は長打率が5割を超えていたことがわかる。大谷はMLBへ挑戦してからも、そのパワーを衰えさせることなく活躍したと言っていい。

 おさらいをすると、出塁率と長打率を足した数字がOPS。そして今季の大谷のOPSは.965。OPSは9割を超えていれば優秀と言われている。大谷は打率こそ.257という数字だが、それをカバーするほどOPSが高いため、文句のつけようがないことがわかるだろう。

OPSを見てわかること

 このOPSを使えば、打率と本塁打数だけではわからない、プロ野球選手の真の実力を見ることが出来る。

 例えば2008年にスレッジ(日本ハム)は打率.289、16本塁打の記録を残した。一方、翌2009年のスレッジは打率.266、27本塁打という成績だった。本塁打数は増えたが打率は減少、しかもその本塁打も30本を超えてはいない。それだけ見ると2009年のスレッジはさほど良くないように見える。ところが出塁率、長打率、OPSを見ると印象が変わる。

2008年 打率.289 21二塁打 16本塁打 出塁率.361 長打率.473 OPS.834
2009年 打率.266 27二塁打 27本塁打 出塁率.359 長打率.529 OPS.888

 こうして見ると、2009年のスレッジは打率こそ下がったものの、2008年よりも四球を選んだため、出塁率はほぼ変わらず。それに加えて二塁打と本塁打が増えたことで長打率が大きく上がったため、OPSは5分も上昇。優秀と言われる9割に、かなり近い成績を残していたことがわかる。うっかりすると「スレッジは打率が下がったからよくない」と思われていたかもしれないが、OPSを中心に見ることで、評価を大きく変えられるのだ。

 参考までに2020年のNPBのOPSランキングを載せると以下のようになる。

パ・リーグ
柳田悠岐 1.071
浅村栄斗 .969
吉田正尚 .966
近藤健介 .934
ロメロ .893

セ・リーグ
村上宗隆 1.012
青木宣親 .981
鈴木誠也 .953
丸佳浩 .928
佐野恵太 .927

 打率や出塁率こそ違うものの、OPSだけ見ると、大谷は吉田正尚、鈴木誠也と近い活躍をしていたことがわかってもらえるだろう。このレベルの成績をMLBで残したのだから、やはり大谷は並の選手ではない。

新たな指標WAR

 大谷がいるMLBではOPS以外にも、選手の本当に優れた選手を評価するための指標が数多く存在する。そのなかでもMVP投票に大きく関わっていると言われる指標が「WAR」だ。

 WARは「Wins Above Replacement」の略として知られる、選手の総合的な評価をするための指標だ。この指標を見ることで「その選手が、控えレベル、一般的なレベルの選手と比べて、どれだけチームに勝利をもたらしたか」を測ることが出来る。例えば、WARが0の選手は良くも悪くもない控えレベルの選手。WARが1なら1勝分、WARが4なら4勝分をチームにもたらしたという計算になる。

 計算式は非常に複雑であり、控えレベルの選手の能力の計算や、wOBAの計算など、様々な要素が絡んでいるため、ここには書き切ることは出来ない。

 どれだけ複雑かというと、例えば打撃の評価に使うwOBAの計算式を書くだけでも

「wOBA = {0.69×(四球-敬遠)+0.73×死球+0.92×失策出塁+0.87×単打+1.29×二塁打+1.74×三塁打+2.07×本塁打}÷(打数 + 四球 – 敬遠 + 犠飛 + 死球)」

と異様に長くなってしまうほどだ。

とりあえず、野手であれば、選手の打撃能力、出塁能力、盗塁以外の走塁(安打の際の進塁、タッチアップ等)も含めた走塁能力、UZRを使った守備の評価、遊撃手などの重要な守備ポジションに就いている選手の能力補正など、選手の様々な能力を考慮して算出していることは確かだと思ってもらえればいい。また、盗塁の評価にしても、盗塁成功数だけでなく失敗数も見たりと、マイナスの要素も見ているのもポイントになる。

 ちなみにその選手の能力補正は、日本の野球データサイト「DELTA」のサイトによると、このようになっている。

守備位置 補正値
捕手   +18.1
一塁手  -14.1
二塁手  +3.4
三塁手  -4.8
遊撃手  +10.3
左翼手  -12.0
中堅手  +4.2
右翼手  -5.0
指名打者 -15.1

 捕手、遊撃手のような重要なポジションの選手が高く補正され、一塁手、左翼手、指名打者など、守備面ではあまり重要でないポジションの選手が低く補正されていることがわかるだろう。

 また、投手であれば自分の能力でコントロール出来る範囲の部分が評価される。例えば奪三振の多さ、与四球の少なさ、被本塁打の少なさなどは自身の能力に大きく左右される。なぜこのような要素を抜き出すかと言うと、内野ゴロやフライアウトは運や守備陣の能力に依るところが大きく評価しづらいからだ。投手の純粋な能力だけを抜き出す意味は大きい。

大谷のWAR

 さて、では大谷のWARはいくつかなのか。米スポーツサイド「ザ・リンガー」が発表したところには、米データサイトの「ベースボール・レファレンス」はWAR9.0と算出したようだ。つまり、控えレベルや平均レベルの選手と比べて大谷は9勝もチームにもたらしたことになる。だいたい5〜6くらいのWARを記録すれば一流選手と言われていることを考えると、大谷のWAR9.0の凄さがわかるだろう。

 比較すると、2021年10月16日現在の2021年度投手シーズンWARトップが、山本由伸の7.9。打者が鈴木誠也の7.9だ(先程と同じくDELTAの公式サイトより引用。https://1point02.jp/op/index.aspx)

 まだシーズン途中であるため山本も鈴木も今以上に数字を伸ばしてくると思われるが、それでも大谷の9.0には届かないだろう。おおよそこの2人以上にチームへ勝利をもたらしたと考えるとわかりやすいように思う。

 それだけではない。WAR9.0という数字はMLBトップの数字でもある。2位のウィーラー(フィリーズ)のWARが7.8だということだから、1.2も差をつけた。前述のとおりWARはMVP投票に大きく関わっていると言われている。大谷には大きくプラスな要素であることは間違いない。

 ではなぜWARが1位になったかというと、まずシンプルに投手としての活躍と打者としての活躍、2つがあったことが大きいと思われる。また、OPSの部分でも書いたとおり、大谷は出塁率が高い。アウトにならない大谷の存在は打者として非常に大きかっただろう。加えて大谷は走力もある。10失敗はしたものの、26盗塁と走った。数字はわからないが、試合を見る限りは盗塁以外での走力もあったように見える。

 また、投手としても、9勝2敗、防御率3.18と表面的な勝ち星や防御率だけ見るとそこまで突出していないが、WARで重視される奪三振を見ると、156とイニングを超える三振を奪っていることがわかる。

 つまり、野手としては一番重要な出塁が優れており、長打もある。走力も優秀な数字を残しており、高く評価された。投手としても自身の純粋な能力、つまりは三振奪取能力が評価され、その2つが合わさってWAR1位になったと考えることが出来る。

 表面的にも“二刀流”としてのわかりやすい評価があるが、本当に優れた選手を見る評価方法でも優れた成績を残した大谷。唯一無二と言っていい存在となったが、これからの大谷が残す成績にも期待していきたい。

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